思い出とOutputと僕と

「検察側の罪人」を読み終えて

雫井脩介を読む上でこの小説を読まない訳にはいかないと感じ、手に取った一冊だった。解説にもある通りこれは雫井脩介の傑作の一つであることは確かだ。まず立場と己の信念を貫いた結果、恵まれていると知った最上。同じく己の信念を貫いた結果、自分の歩む道が分からなくなった沖野。彼らの対比が凄い。彼らの違いは単純に取り巻く環境や経験だけなのだろうか。お互い正義を貫いた結果、全く異なってしまったのは単純に運命などという言葉で片付けてしまって良いのだろうか。
また、傑作といえる所以に正義とはが問われている点である。法治国家の日本においては法によって罪は裁かれるべきであるが、私たちの生活は複雑であり全ての事象を法が裁ける訳ではない。その中で登場人物達が己の正義のために動いている。ある者は裁かれなかった過去の事件について、ある者は法について、ある者は家族の生活のために、など様々な正義が描かれており、沖野とともに最後まで正義とはについて悩める傑作である。